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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)4669号 判決 1964年4月30日

原告 皆川行雄

右訴訟代理人弁護士 石丸勘三郎

同 石丸九郎

被告 財団法人日本穀物検定協会

右代表者理事 渡部伍良

被告 須崎利喜夫

被告両名訴訟代理人弁護士 難波理平

主文

被告等は原告に対し、各自金三七四、四六二円及びこれに対する昭和三六年六月三〇日以降右支払済ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一を原告の、その余を被告等の負担とする。

この判決は第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、昭和三五年七月二〇日午前九時四〇分頃、東京都練馬区中村町二丁目八番地先の甲道路(巾員約一〇、四五米)と乙道路(巾員約七米)との交叉点において、甲道路を西方から東方に向け進行中の被告須崎運転の普通乗用自動車が乙道路を北方から南方に向け進行していた原告乗用の自転車と接触し、原告を転倒させ、よつて原告に右腓骨解放性骨折、左第九肋骨骨折の傷害を負わせたことは当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫を綜合すれば「右交叉点の北西角には道路に近接して建物が存し、これに妨げられて甲道路の交叉点西側と、乙道路の交叉点北側とは相互に全く見通しができない状況であることが認められる。従つてかかる状況のもとでは、甲道路を東進して交叉点に向う自動車運転者としては少くとも右交叉点に乙道路を南進して進入する車があり得ることを予想し、同交叉点の北側を十分見通し得る地点に至るまでは特に前方を注視しつつ減速し、乙道路を南進し交叉点に進入する車を認めたときは直ちに急停車しまたはハンドルを切つて衝突等の事故発生を防止し得るよう留意し、十分安全を確認して進行すべき注意義務があると認められる。」ところで前出の各証拠(但し原告、被告須崎各本人尋問の結果のうちいずれも後記措信しない部分を除く。)と鑑定人石川健三郎の鑑定の結果を綜合すれば当時被告須崎は乙道路に十分の注意を払うことなく、また減速をすることもなく少くとも制限時速一杯の四〇粁の速度で進行し、他方原告も乙道路を南進して右の交叉点に入る際は、一旦停車して甲道路の通行車の有無を確かめ安全を確認した後進行すべきであるのにこれを怠り、停車することもなく、甲道路右側(西側)に十分注意をせずに従つて原告の方向に向つてくる被告須崎運転の自動車を意に介することなく交叉点に進入した。その結果被告須崎が原告を認めてその運転の乗用車に急制動をかけたが、間に合わず、約一〇、三米スリツプした後、交叉点略中央でその自動車の前部を原告乗用の自転車の右側部に接触させたことが認められる。≪証拠の認否省略≫右事実によれば被告須崎の過失と原告の過失とが競合して本件事故を惹起させたと認むべきである。そうとすれば被告須崎としては原告に対し本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

二、次に被告協会は、右に認定した被告須崎運転の乗用車を自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないところ前認定のとおりその運行によつて原告の身体に傷害を与え、しかもこれにつき被告須崎に過失があると認められるのであるから被告協会は原告に対し右事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

三、原告の蒙つた損害。

(一)  積極的損害。原告は本件事故により前記傷害を受けた外、≪証拠省略≫によりなお右下腿挫創、右側腰部挫傷、右側頸部挫創の傷害を負つたことが認められるが、日本大学板橋病院及び中南国保病院において、これらの傷害の診療を受け治療費として合計金七、九六九円、松葉杖購入費として金一、〇〇〇円を支出したことは当事者間に争いがない。又日本大学板橋病院へ通院のためタクシー代金四、二四〇円を支出したことは当事者間に争いなく≪証拠省略≫により右通院は本件事故により生じた前記傷害治療のためのものであることが認められる。以上の各支出は本件事故と相当因果関係にある損害と認めることができる。

「原告は更に炬燵及び栄養飲食費の支出をも本件事故により生じた損害であると主張する。然し炬燵は本来通常の暖房器具にすぎず、仮に原告本人の供述(第一回)のとおり紫外線照射のためこれを購入したとしても、その代金全額を本件事故と相当因果関係にある支出(損害)と認めることはできない。もし紫外線照射設備の存するため通常の炬燵より高価であるならば、その差額のみが事故による損害と認め得べきものであるところ、右差額については何等の立証も存しない。次に葡萄酒、養命酒は通常は嗜好品と認めるべく、これらが事故による前示傷害の治療のため必要であつたとのことは、これを認めるべき適確な証拠が存しない。更にそば、卵、牛乳も通常の食事として以上に特に本件事故による負傷の治療のため必要であつたとのことは証拠上認められない。よつて右炬燵、葡萄酒、養命酒、そば、卵、牛乳の代金については、本件事故と相当因果関係にある損害とは認め難い。」

(二)  得べかり利益の喪失による損害。

(1)  ≪証拠省略≫を綜合すれば、財団法人電気通信共済会関東支部第一作業課に勤務していた原告(この点は争いがない。)は、本件事故による負傷のため、その後昭和三六年一月三一日まで休職を余儀なくされ、その結果昭和三五年八月一日から同三六年一月三一日までの間一ヶ月金八、六〇〇円の基本給の支払は受けたが、従来支給されていた一ヶ月平均約金三、三〇〇円の特殊作業手当、時間外手当の支給を受けることができなかつたことが認められる。≪証拠の認否省略≫よつて原告は本件事故による休職のため、右期間中に金一九、八〇〇円の得べかりし利益を失つたと認められる。

(2)  ≪証拠省略≫を綜合すれば、原告は昭和三六年二月一日復職(この点は争いない。)したが、負傷による労働能力低下のため第一作業課(主として自転車により日本電信電話公社の公衆電話設置個所を巡廻しボツクスの清掃等の業務を行う)から第二作業課(主として日本電信電話公社の庁舎、局舎、病院等の内外の清掃を行う。)に配置換になり、そのため減収となつたこと、その減収額は賃金総額が月により増減があるので、その正確な額は必ずしも明瞭ではないが、概していえば、第一作業課勤務の当時は前記のとおり基本給の他時間外手当、特殊作業手当の支給を受けていたのであるが、第二作業課においては基本給の外は時間外手当(第一作業課とは内容は異なる。)を支給されるのみであつて、原告の場合その差額は平均一ヶ月金三、四〇〇円程度であることが認められる。≪証拠の認否省略≫。(原告主張減収額は梅田勲の給与との比較により算出されているが、当裁判所は右比較をするについての合理的根拠が存すると認めず、引続き第一作業課に勤務し原告と年齢的にも事故前の給与額においても近似する笹子金太郎の給与(年令明治三四年九月二三日生、事故前六ヶ月の賞与を除いた給与額一ヶ月平均一一、一五七円―原告は金一一、五五七円―なお昭和三八年二月の賃金総額二〇、五二五円―原告は金一七、一二〇円)との比較により前記のとおり算出した。)しかして≪証拠省略≫により認められる明治三六年三月一〇日生の原告は通常の在職年限である満六五年まで昭和三六年二月一日から七年一月在職し得ると認められるから、その間の減収額、即ち得べかりし利益の喪失の総額はそれまでに原告が作業能力を回復し得べきことについての主張立証が存しない以上金二八九、〇〇〇円であると認められる。

(3)  原告は右(1)(2)の金額よりホフマン式計算方法により中間利息を控除さるべきことを自認する。よつて左記によりこれを控除すればその現在価額(本件事故当時)は合計金二六一、二五三円となる。

……+……(1)の現在価額

……+……(2)の現在価額

(4)  慰藉料

本件事故により原告が精神的苦痛を受けたことは明かであり、前認定の原告の年令、原告本人尋問(第一、二回)の結果により認められる、原告は日本大学工科を中退して大正一二年八月から逓信省に勤務し、昭和二三年退職当時は高等官七等にまで昇進していたこと、退官後前記共済会に勤務し事故当時電話ボツクス清掃の業務に従事していたものであり、その収入は前認定のとおりであつたこと、本件事故により前記傷害を受け現在もなお受傷部位に痛みを感ずること、と前認定の被告須崎の過失の程度、原告自身の不注意も本件事故の一因をなしていること、他方当事者間に争いのない被告協会は全国にわたり一〇ヶ所の事務所を有し、農産物及びその製品等の品質、数量ならびに包装容器の検定及び船積穀類の検量等を業務とするものであり、被告須崎は被告協会に勤務する自動車運転者であることを合せ考えれば原告の精神的苦痛に対する慰藉料としては金一〇〇、〇〇〇円が相当であると認められる。

四、以上の次第であるから被告両名は原告に対し各自右三(1)から(4)までに認定の損害の合計である金三七四、四六二円及び本件訴状送達の翌日である昭和三六年六月三〇日以降右支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五、よつて右の限度で原告の請求を認容し、その余はこれを棄却すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を各適用し、その二分の一は原告の、その余は被告等の各負担とし、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 竜岡稔 裁判官内田恒久は転官のため署名押印できない。裁判長裁判官 吉岡進)

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